冒頭部分の木村さんの動き。僕は小川洋子さんの短編小説集『まぶた』の単行本を持っていて、その表紙の女の子がすごく思い出された。家に帰って見てみたら、あの女の子は耳は塞いでいなかった。木村さんの冒頭の動きは最後の部分へもリンクしていく。
“語り手”である“私”が“彼”の話を聞く為に、“身体を心持ち彼の方へ傾ける”場面で、実際に読み手であるとよしまさんが身体を隣の空席に少し傾けた。ほんとうに少しの動きではあったのだが、随分と場の印象が変わったように思った。
老女の語りが良かったと思う。特に、ペンフレンドが郵便受けに横たわっていた手紙を大事にそっと取り出していた、と話す所。
今回のテキスト『飛行機で眠るのは難しい』を読んでいて、この場面は公演でどのような感じになるのだろうか、と一番思っていたのは、老女が苦しみだす所でした。実際に公演を観て、僕はこの場面が一番印象の深いシーンでした。この場面では、とよしまさんの朗読と木村さんのダンスが別々の時間を築いていって、その時間が交錯することによって、こちら側にその時の飛行機の情景を喚起させたように感じられたのです。
遊さんが今回の公演の感想を書かれていて「ああ、なるほど」と思いました。とよしまさんと木村さんの信頼関係が感じられました。「朗読をきちんと聞いてもらう」という前提をお二人が共有されて、その上でパフォーマンスをされていたのだと思いました。お二人がそれぞれにもたらす時間は、時には互いが互いを邪魔してしまわぬようにあられたり、そのもたらす時間が交差したりと、とても静かではあるけれど、流動的で、その雰囲気がとてもよかったんじゃないかと思いました。